パン屋の思い出

仕事

20代前半、フリーターでパン屋でアルバイトをしていた。毎朝始発電車に乗って、パン屋に出勤していた。毎朝始発電車に乗るメンバーはほとんど固定されていて、いつも見る顔の名前の知らない人たちと共に始発電車に乗っていた。始発なので、電車の扉を開くと席の取り合いだ。座れると降りる駅まで寝ていた。ある日降りる駅でも寝ている私を見てオバサンが、『あんた!ここで降りるんでしょ!』と肩を叩いて起こしてくれた。私は『あ!はい!ありがとうございます!』と言って電車を急いで降りた。名前やどこで働いているかとか全く知らないが、そこには(毎日同じ始発電車に乗るメンバー)という変な知り合いだった。

パン屋では、仕込み(パンの生地を作る)、翌成(翌日に出す予定のパンを成形し冷凍する)、分割(生地を分量ごとに切り分ける)、成形(分割済の生地を形作る)、コンベクションオーブン(ペストリーやクロワッサンを焼く)、ラックオーブン(フランスパンや食パン等を焼く)という役割に分かれていた。

成形以外は基本一人での作業で、それぞれ人が配置されている。成形は3人配置されていて、どんどんくる生地を3人であうんの呼吸で成形し、天板に載せていく。シフトを確認した時に、「あ〜。このメンバーの日やりづらいな〜」とか思うのだ。私は成形メンバーになった時、他の2人の足手まといにならないよう必死だった。シャカリキに働いていたと思う。

私より先に入っていた、〇〇さん。〇〇さんは余計なことは喋らず、淡々と仕事をする人だった。〇〇さんはアルバイトだったが、社員の人にも思っていることは臆せず意見を言う人だった。普段は冷めた感じなのに、私がぽろっと言ったことがツボにハマったのか、ちびまる子の野口さんみたいにフッフッフって笑うのが面白かった。彼女は肉と魚は食べず、豆で栄養を取っていると言っていて、毛穴がなくて肌がめちゃくちゃ綺麗だった。

ある日その〇〇さんに帰り際、『おもちさんと成形一緒の日だと楽しいです。』と言われた。私は仕事中に私語をあまり喋らないし、必死で皆んなの足手まといにならないように一心不乱に動いていたので、自分を認めてくれたようで、すごく嬉しかったのを覚えている。

私がパン屋を辞めて始発電車に乗らなくなった後、始発電車で降りる駅で起こしてくれたオバサンが、ホームで偶然会い、『あんた!元気!?見なくなったけど、仕事辞めたの!?』と声をかけられた。名前も知らない同じ始発電車に乗るだけの私のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。

人嫌いで人間関係が面倒だと最近すごく思っている。しかし、昔を思い出すと人に救われているのも事実だ。

相手がどう思うかはわからないけれど、自分されて嬉しいことは人にもするようにしよう、昔を思い出して改めて思った。私は毎日、優しい言葉をかけてもらいたい。

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